2006年04月11日

記号変換

似姿[ガートルード・スタインの肖像画]は…格調高い様式で始まったが、プリミティヴな形態を利用することで変化し、歪曲された顔立ちの特徴から同一人物だと判定される習作になった。

イベリア美術のヴォキャブラリーからピカソが選び出した形態――大きすぎる目、誇張した突き出た眉毛――は、どんな『入門』書でもいまだに新米カリカチュア作者に強調するよう勧めている顔立ちの特徴そのものである。

ピカソが発明したのは、一種のクレオール、馴染みのないヴォキャブラリーを馴染みのある統語法の中に吸収した言語だった。

…ロウからハイへの移動、イーゼルに対するスケッチ帳の勝利は、プリミティヴィズムというトロイの木馬によって成し遂げられた。
アダム・ゴプニック 「ハイ&ロウ――カリカチュア、プリミティヴィズム、そしてキュビスムの肖像」
(『Art Journal』43巻4号〔1983年冬号〕)


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2006年04月07日

創造的冒涜

一般的にいえば、プリミティヴィズムの原動力は、差異と、その解消から生まれる。プリミティヴィズムは、明らかに他者であるものの意義を認めることによって、緊張感に満ちた境界線を作りだす。つまり自分たちのものとは異なった時代や文化や精神を劣ったものとみなすのではなく、そこに刺激的な差異を見出すのである。歴史や階級や人種の要求を拒否する創造的冒涜の中で、親縁性が直観され、境界線を越えた交換が生じる。
カーク・ヴァーネドー 「ゴーギャン」
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周知のことだが何度も気づかされることT ―場所

すべての亡命において真実であるのは、その故郷が、そして故郷への愛じたいが失われてしまったということではなく、故郷の存在とそれに対する愛そのものの中に、すでに喪失が本来的に埋め込まれてしまっているということなのだ。

「混血」や「クレオール」や「難民」(これらすべては「場所(プレイス)」の固定的な原理が崩壊したあとの「転位(ディスプレイスメント)」の過程の中でもたらされたものである)
今福龍太 「ネイティヴの発明―場所論T」
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くじら構文

中学時代、どうしてもわからない英語の構文がありました。それは、いわゆる「くじら構文」。

A whale is no more a fish than a horse is.

別に構文自体が分からないんじゃないんです。例文が分からないんです。「馬が魚じゃないように、くじらは魚ではない」。ここで馬とくじらが比べられているのがどうしても納得いかなかった。

たぶんこれは範疇論の問題なんだろうけど、くじらが魚の形状に類似しているにもかかわらず「哺乳類」であることを、私たちは予め知識として知っている。だから馬と比較されても問題がないんだろう。

だけど、「馬が魚じゃないように」という具体例をあげていることからすると、どうもくじらが魚じゃないことを知らない人に、わかりやすく説明しているように聞こえる。少なくとも中学生の私にはそう聞こえた。前提を知らない人に、馬とくじらを並べて「ほら、魚じゃないでしょ」と言ったところで納得するだろうか?

一体誰が最初にくじらと馬の例文をつくったんだろう。そして何でそれが「くじら構文」と言われるほど定着したんだろう。それはいまだに謎です。
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2006年03月27日

ロボットとアニメの関係

ロボットとアニメの関係。唐突だけど、意外に近い関係にある。ロボットの起源、なんて話に決まって挙げられるのは童話作家カレル・チャペックで、人間に従順な機械人形を指してそう呼んでいる。チャペックがチェコ語の「robota(賦役)」から「a」をとってロボットと名づけた一方で、手塚治虫は『火の鳥 復活篇』の中で、チェコ語そのままの「ロボタ」を家事ロボットとして登場させている。まさに労働力として使役されることを示している。

でも今問題にしたいのは、じゃあ現実にロボットを作った場合にはどうなるの?ということ。「アンドロイドは電気羊の夢を見る?」のかどうかは今回扱いません、あしからず。私のいとこはロボット工学を専攻していて、今ロボット開発の会社で働いているんですが(彼女は大学で空圧制御のプログラムを組んでフルートを吹く人型ロボットを開発していました)、そんな姿を見ているだけに、よくSF小説などで登場する高度に発達したロボットが存在する世界よりも、それがいかに作られるかってところに、手塚治虫なんかを読んでいて思っていたわけです。

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2006年03月13日

ツーリズム批判

商品循環の副産物として、一つの消費とみなされる人間的循環、すなわち観光<ツーリズム>が生まれるが、それは結局のところ、本質的に、凡庸化されたものを見に行く余暇である。

さまざまな土地を訪れるための経済的整備は、既にそれ自体で、それらの土地の等価性を保証するものである。旅から時間を奪ったのと同じ現代化が、旅から空間の現実性を奪い去ったのである。
ギー・ドゥボール 『スペクタクルの社会』
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2006年02月28日

DR9 拘束と解放

現在渋谷のシネマライズでマシュー・バーニーの映画「拘束のドローイング9」が上映中ということで、久々にバーニーについて。

8月に金沢で見て以来半年がたつわけで、ここでは記憶とメモ書きをもとに映画をまとめつつ、少しバーニーについて考えてみたい。

「拘束のドローイング」展カタログ


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2006年02月21日

物質の見かた―そして図式空間

 写真の見方が人間の見方であるというのは一つの申しあわせのようなものである。レンズの角度は何度が最も妥当であるかはまったく疑問の中にあるのである。

 しかし、世の写真製造業者はこのレンズという非人間的世界観察者を人間が見るものとして、人類の中に提出しているのである。そして、人間は逆に、レンズの見方にしたがって世界をそう思い込もうとしているのである。この見方は実に、人間が付託したところの物質の見かたである。自己がその観点を意識する個性を奔騰させる自由人間の築きあげる体系の空間ではない。

 世界に単に対応関係を持っているところの徹底した「図式空間」なのである。人間集団の構成する物質の見かたなのである。

 この徹底した物質的視覚としての「図式空間」から映画は出発するのである。
中井正一『美学入門』
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2006年02月10日

オロスコの位置

Gabriel Orozco,《Simon's Island(サイモンの島)》, 2004. 先日、ようやくにしてガブリエル・オロスコのカタログ手に入れた。去年開かれた、スペイン・マドリードにあるレイナ・ソフィア現代美術館での展覧会のカタログだ。

 手にとってみると、意外に大きい。内容はほとんどオロスコの写真がメインで、身の回りの(たぶんメキシコ)何気ない事物を撮影している。ただ、そのどれもが円にまつわる形態を有しているのが特徴的。ビー玉、ライム、消火栓、目玉焼き、ビールの空き瓶、サッカーボールのミニチュア、等々。

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2006年02月09日

CIRCLE

Gabriel Orozco, Yielding Stone(しなやかな石), 1992.

その形はあまりに単為生殖的であり、
自己閉鎖が過剰なため、
いかなる芸術的な介入も
排除する印象を否めない。

円はまた
作者である主体に
再帰的な対象との対決を迫る、
極めて根源的な試みの限界さえも
超えてしまう。

完璧な円は
人間の手によって作るしかない
という事実があるため、
その空虚さや完璧さを
向上させることも
高めることも
叶わない。
ベンジャミン・H.D.ブクロー
「抽象概念の宇宙的な具象化―オロスコの写真作品」
posted by jaro at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | Dog-ear | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする